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ABOUT

2020年3月31日。新宿御苑にあるレコーディングスタジオ、スタジオグリーンバード(旧テイクワンスタジオ)が閉店となりました。建物内には3つのスタジオがあり、全てにアナログ卓を構えた環境でこれまでに数え切れない素晴らしい作品が作られました。

そして4月が始まり、営業を終了したスタジオにはミュージシャンは訪れなくなりました。これからもまだ活躍できる機材が運び出されるのを待つスタジオ。本来であれば、なくなってしまう前のスタジオの様子や、長く愛用していたアーティストの思い出を映像に残すための準備を進めてました。

しかしながら、いつもの桜の季節とは違う2020年4月、新宿での撮影は安全面からも困難となり、少し違った形で作られたサイトがこの<Greenbird Sessions>です。

ここには3月までにスタジオグリンバードで録音された作品と、みんなが愛したこのスタジオに向けたコメントが掲載されています。

スタジオグリーンバードで音を奏でた、
録音をされたみなさまへ

グリーンバードの思い出を語っていただける方がいらっしゃったらぜひサイトの<contact>からメッセージをお送りいたくか、ハッシュタグ「#greenbirdss」を加えていたきSNSでつぶやいていただけたら、サイトに掲載させていただきます。思い出の残っているアルバムも1枚教えていただけたら。

また、もしも今後リリースされる作品でこのスタジオで録音された音源のリリースがあれば<contact>からご連絡いただければ掲載させていただきたいです。

グリーンバードに訪れた方だけではなく、音楽を愛するみんなで一緒に<なくなってしまったスタジオを思い浮かべ、生まれ出た音楽を楽しむ。>そんな場所になりますように。

レコーディングエンジニア古賀健一さんがスタジオグリーンバード響きをIRデータ(Impulse Response)にされました。
以下URLからダウンロードできます。

最後に、数多くのミュージシャン、関係者に愛されたグリーンバードスタジオとスタッフのみなさまへ。

For Greenbird

怒髪天
怒髪天さん&サウンドエンジニアの池内亮さんからは映像コメントをいただきました。YouTubeをご覧ください。

思い出の1枚:怒髪天『夷曲一揆』
柏井日向 (サウンドエンジニア / プロデューサー)
グリーンバードスタジオは僕のホームでありスタンダードでした。
仕事の依頼が来て最初にする事はグリーンバードにアーティストをアテンドする事で、ホームに招いたからには仕事の半分は終わったような心持ちです。
厚かましいことにグリーンバード出身者でも何でもない無いんですけどね(笑)。
5mの天高でアメリカンレッドシダーの素晴らしい響きの1stでは数多くのレコーディングをしてきました。
防音ガラスを隔てドラマーの演奏をすぐ真後ろに見ながらレコーディング出来るエンジニアポジションは特等席で、最高のドラマーとのセッションでは自分がお客さんにならないよう注意しないといけません(笑)。
HIATUSの柏倉君のレコーディングなどは喜びの極みで、彼が「何度もすいません、もう一度お願いします!!」と言うと僕は「何度でもどうぞ!!」。 心のうちでは「もう一度聞かせてもらえるんだね」という感じです。
「グリーンバードの何が好きだったか?」と問われたら、前述の部屋の響きや多くの素晴らしいマイクがあった事に加え、スタジオが纏ってる空気みたいなもの。
それは今まで演奏されてきた数々の音が染み込んで香って来るもの、居心地やアシスタントの人柄、新宿御苑という立地、いつも気持ちよく迎えてくれる代表の廣田さんやマネージャー南場さん、はたまた出前のメニューまで、それら全てがスタジオの空気、色となって表れるのだと思います。
「Recorded by Hyuga Kashiwai at Greenbird」というクレジットはグリーンバードと果たされた信頼の署名であり、残念なことに今後それがなされることは無くなりますが、スタジオからもらったスタンダードを元に良い作品を作って行く事で恩返ししたいと思います。
本当に長い間お世話になりました!! ありがとうございました!!

思い出の1枚:the HIATUS『Our Secret Spot』
後藤正文 (ASIAN KUNG-FU GENERATION)
グリーンバードで行なったChris Wallaとの仕事は、僕の音楽的志向性を決定付ける体験でした。
また、かけがえのない仲間たちとの、とても素敵な時間でもありました。一生忘れないと思います。
当時の空気や、スタジオの残響や音の温もりはアルバムに閉じ込められたと思いますが、将来の世代が実際に体験できないことを思うと、残念な気持ちでいっぱいです。
関係者の皆さんは、最後までスタジオ存続のための努力をしてくださっていたと思います。心からの感謝とリスペクトをここに記します。

思い出の1枚:Gotch『Good New Times』
ミツメ
大学の音楽サークルの仲間であるエンジニアの田中章義が勤務していた縁があり、2012年に2ndアルバムの「eye」のレコーディングで使用させていただいて以来、私たちミツメはグリーンバードの録り音に魅了され、以後すべての音源のレコーディングと、2回のスタジオライブでお世話になりました。
これ以上なく素晴らしいアナログ卓をはじめ、機材・設備の一つ一つに高揚しました。夢中でレコーディングを行い、夜が明けていたことも何回もありました。
今後、夜明けにグリーンバードの地下から出た瞬間の眩しさを感じるということもできないのだと思うと、とても寂しいです。
長い間、本当にありがとうございました。

グリーンバード・ライブセッション音源:ミツメ『ブルーハワイ』(2020年4月にデジタルでもリリース)

映像は本サイトに合わせ公開されたグリーンバードでのスタジオライブ映像:ミツメ - Headlight Session
田中章義 (元スタジオグリーンバード / サウンドエンジニア)
グリーンバードには4年間所属し、多くの作品に参加させてもらいました。

地下の1st、2stはGeorge Augspurger氏によって音響設計された、日本有数の自然な響きのするスタジオです。
ここでアシスタントからスタートし、エンジニアとして育ててもらいました。

自分の想像を超える演奏や音に感動したこと。
憧れの人と仕事ができたこと。
仕事ぶりを褒めてもらって嬉しかったこと。
緊張で胃がキリキリしたこと。
帰れなくて何泊もしたこと。
夜通し機材のメンテナンスをしたこと。

思い出は数え切れないほどあります。
フリーになってからも行くと落ち着く、自分にとっては実家みたいな大切な場所でした。
まさか自分が育ったスタジオがなくなってしまうとは考えもしませんでした。
今となってもまだ実感があるような無いような、というのが正直な気持ちです。

色々なことを経験し、たくさんの人に出会えたこの場所には感謝しかありません。
ありがとうございました。

動画はグリーンバード3stで録音、撮影したものです。
三船雅也 (ROTH BART BARON)
新宿通りを四谷のほうへ歩く、サンドイッチ屋で買い物がてらアルバイトをしているインド人かパキスタン人の子たちと少し軽く話す、しばらくしてくると右手に新宿御苑が見えてくる。そのちょっとした四谷の華やかさの手前、少し寂しさの残るビル街の真ん中、新宿の喧騒をちょっと離れた静けさの片隅にそのスタジオがある。真夏の強い日差しの中そのビルの中に入って地下へ潜るとひんやりとした肌触りのコンクリート、気難しい外観からはとても音楽が生み出されるスタジオがこの中に入っているとはとても思えない。しかし一歩、地下奥の第一スタジオに入ってみるとその温かみのある木材に囲まれたスタジオデザインにこれまでどれほどの多くの音楽が生み出され、その輝かしい音たちをスタジオ全体を覆う美しい幾何学模様のパターンの木材たちが吸い込んできたかが手に取るようにわかる。その部屋の佇まいは都会のど真ん中と思えないほどの神聖さを放っているのだ。全身の毛が少しだけ総毛立だった、その場所をスタジオグリーンバードと言う。

この3年間文字通りこのスタジオで苦楽を共にした、このスタジオでふた夏を過ごした。皆が夏の暑さに浮かれる間、僕はこのひんやりとしたスタジオの地下室で淡々と音楽を作っていた。火の灯ったカラっとして粘り気のあるNEVEの温かさを感じながら、死ぬほど産みの苦しみにのたうち回ったし、音楽を生み出す極上の喜びを感じたりした。人間の感じるであろう極限の感情の上から下までをこの場所でもらった。

今ではコンピューターの発達に伴いほとんどの録音はソフトウェア上で行われることになった、”大きなスタジオで大きな音を出して作る音楽”と言うものはほんとに貴重な存在になってしまった、言ったら今でも手書きでアニメを作るアニメーターみたいなものだ。ただ音楽と言う根源的なものはまぁすべてのことにおいてそうなるだろうけど元からある古くから続く方法を学ばなければ未来のテクノロジーをもってしても使いこなす頭を持たないのである。だから僕はこの変わりゆく激動の時代に両方のことを学べたと言うのは非常にラッキーな世代だったのかもしれない。

残念ながらそのスタジオ最後の瞬間をこのCOVID-19の騒ぎの中で僕は立ち会うことができなかった。

多く積み上げた何かを失うのは一瞬だ、今このたくさんの音が染み込んだ状態のスタジオを作ろうと思ったらそれは何十年とかかることであろう。今僕に出来る事はあのスタジオにふさわしい音楽を作り続けることだ、僕がグリーンバードで経験したこと、その記憶はおそらく遺伝子に残る事は無いのだ、ただ僕の記憶の中にそっとその美しいスタジオがあり、そのスタジオはどのような響きを持っていたかという当事者だけしか知り得ない感覚を、僕は音楽を通して遠くの誰か、遠くの未来に語り継いでいきたいと思う。

グリーンバードよ永遠に、僕はこれからも音楽をつくります、その時あのスタジオの風景をふと思い出すのでしょう。

グリーンバードで録音されていた新曲:ROTH BART BARON 『SPECIAL』
前田洋佑 (元グリーンバード / サウンドエンジニア)
グリーンバードへ初めて訪れたのは
先輩からトランポを頼まれて機材を届けなければならいのに寝坊して…。
飛び起き当時自分が居たスタジオに行き機材をワゴンに積み、グリーンバードへ。
ナビもなくテンパってた割に迷う事なく裏手の駐車場すんなり着けたのにスタジオは迷宮のようで、どうやったら1stに行けるのか、かなり悩みました…。
確かあの日は大型連休で事務所に人が居なかったのかな?
しょうもない話しですが…。
それが僕の初めてのグリーンバードです。

それから約10年後、グリーンバードで働く事になりました。
スタジオからスタジオに移る事は珍しくないとは思うけど、他のスタジオに基本行く事の無かった僕としては何か縁があるのかな、なんて勝手に思ってます。

グリーンバードで出会って、今回この企画を発案して頂いたHさん。クールだけどとても熱い方です。そんなHさんが担当する ROTH BART BARON。
グリーンバードに中途できてまだ良し悪しがよく分かってない自分に、存分にスタジオの良さを教えてくれた、わからしてくれたバンドです。
ドラム、ギター、ピアノ、ヴィブラフォン、足踏み、クロテイル、弦、金管、木管、clap、合唱、といろいろ録りましたが 好き放題マイクを立てて色々試しながらやらして貰いました。
グリーンバード良いスタジオだなと、録りやすいし、なんか良い音になる。ロットがとってもグリーンバードの音に合っているのもあると思いますが、良いスタジオだなーっと感心する場面がいっぱいありました。1stの卓の調子は機嫌屋さんで大変でしたが…。
残念…。よりも勿体ないが一番の感情です。
仕方ないのかな、時代かなと思う気持ちもありますが…。
もったいない…。
多くの作品でグリーンバードの音が聞けると思います。それを探すのも面白いかもしれませんね。
思い入れのある場所が無くなるのは凄く寂しい事ですが、素晴らしい作品、音を長い間生み出してくれてありがとうございました。
そしてお疲れ様でした!

思い出の1枚:ROTH BART BARON 『けものたちの名前』
前野健太
スタジオグリンバードには大変お世話になりました。
 『サクラ』という自分のアルバムの全曲を、ここでレコーディングさせていただきました。
 このアルバムのほとんどの曲は新宿で作りました。スタジオの近くの新宿御苑や、歌舞伎町、二丁目、そしてスタジオがある一丁目。ビックロや紀伊国屋書店の三丁目。新宿には色々な顔があって、どこか田舎っぽさを感じられるところが、私は好きです。そんな街の中にあるグリンバードでレコーディングできたことは、この「歌たち」にとっても幸せな出来事だったのではないかなと思っています。
 グリンバード閉店と聞いて思い出すのは「中本」のことです。私は当時スタジオの近くに住んでいて、近所の店はだいたいチェックしていたのですが、この中本はノーチェックでした。
 ある日レコーディングが終わり、エンジニアのSさんと「軽く行きましょう」となりました。中本でいいですか、とSさん。私は、どこですかそれ、と聞き返しました。え、知らないんですか、とSさん。スタジオからごく近くにあり、入ると普通のラーメン屋さんでした。スタジオ代表のHさんとSさんの当時のマネジャーのWさんが後から来て、瓶ビールを頼みました。つまみはあまりなく、レバニラ炒めと餃子を注文しました。まずビールで乾杯して、三人は「大将もどうぞ」とビールを勧めていました。私はその自然な流れに、いいな、と感じていました。
 私たちは競馬が好きなので競馬の話をしました。大将もお好きでした。それからレバニラ炒めが来て、その美味しさに目を丸くしました。こんなに近所だったのに、と自分を恥じましたが、すぐに知れてよかったという気持ちに変わりました。それから餃子も美味しくて、締めにラーメン。これが度胆を抜くうまさ。大将、半端ないです、と伝えると、でしょ、と大将。でも馬券全然当たらないんだよね、と大将。私はその時、グリンバードっていいスタジオだなと思いました。大将との距離の取り方、お酒を勧める姿。そのお三方の何気ない振る舞い。スタジオがなくなったのにラーメン屋での話かよ、とお思いになるかもしれませんが、私にとってはこれこそが「街の音」であるような気がしています。いい飯屋があって、いいスタジオがある。そこに人が通い、御苑の風もそれは羨ましいと感じたはずです。
 そんなスタジオで録られた私の『サクラ』は2017年の新宿の空気を丸ごと詰め込めた、幸せなアルバムとなりました。それもこれもグリンバードが新宿一丁目に根を生やしてくれたおかげだと思っています。御苑の森の風も感じるし、歌舞伎町の淫靡な夜の空気も感じられる。私が拾い集めて来た歌が、街に根を生やした一本の大きなグリンバードという木の中で音楽の職人たちによって形作られて、今一枚のアルバムとして残りました。
 100年後にこのアルバムが聴けるかどうかわかりませんが、無性にラーメンの食べたくなるアルバム、として紹介されているかも知れません。私もあなたも死んでいるので確認はできないでしょうけど。グリンバードさん、ありがとうございました。お互いもう少しだけ、旅を続けましょう。

思い出の1枚:前野健太『サクラ』
https://ssm.lnk.to/sakura

本企画のためにデジタルリリースされた未発表音源:前野健太『ロマンチック2017』
オカモトショウ (OKAMOTO’S)
確か、1stか2ndアルバムを録る時にはもう使ってたハズだから…自分が作品を作り始めたときには既にお世話になっていた場所がGREEN BIRDだ。
俺たちが最初にメインでお世話になっていたエンジニアの方もその昔、このスタジオでアシスタントをやっていたらしい。
彼から尾崎豊さんのレコーディングや佐野元春さんのレコーディング(その他数多のレジェンド達)の逸話をいくつも聞いた。それが正に巻き起こっていたのもこのスタジオ。
音はもちろんのこと、アルバムのジャケットはどうする、タイトルはどうする、そんな話もこのスタジオの待合室で決めた。 だから、自分達のアルバムを聴き直すと思い浮かぶ景色の中にこのスタジオはほぼ必ず入っている。今回リリースした10'S BESTに入ってる新曲もここでレコーディングをした。
いつも通り、想像を超えるカッコいい音を鳴らしてくれた。
俺たちがバンドを始めた時にはもう音楽産業のバブルは終わりを迎えていて、各所有名なスタジオが閉鎖していく最中だった。
終わる理由は様々だが、色んな先輩ミュージシャンから聞く有名なレコーディングスタジオの話はいつ聞いても色褪せず、憧れを抱いた。
もう少し早く生まれていたら、俺たちもそこにいたのかな?と。
だからこそ、歴史あるGREEN BIRDというスタジオを自分たちも使うことができていたのがなによりも嬉しいし、これから音楽を始める人たちにこのスタジオの話を伝えていくことができることを誇りに想う。
今までありがとう、俺たちも仲間に入れてくれて嬉しいよ、GREEN BIRD。

思い出の1枚:OKAMOTO'S Best Album『10'S BEST』
橋本絵莉子 (チャットモンチー済)
グリーンバードには、思い出と感謝しかないです。「おはようございまーす」とスタジオに入っていく緊張感、「また明日です〜」と帰る疲労感、ぜんぶ受け止めてくれる場所でした。ずっと好きです。アイラブユー!
思い出の一枚、選べませんでした。


Twitterに素敵なレコーディング風景の動画をUPされています。<PLAY>にリンクを貼らしていただきました。